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渡霧吐夢世界

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薄暗く不透明な世に一条の光を求める一こま

読書日記8月2日(日)

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 「沈みゆく大国アメリカ」       堤未果  2014.11.19
            ~政府は必ず嘘をつく~

筆者堤未果は東京生まれのジャーナリスト。2008年「ルポ貧困大国アメリカ」で日本エッセイストクラブ受賞、2011年「政府は必ず嘘をつく」早稲田大学理事長賞を受賞。
 「日本の国民皆保険制度を守ってくれ」これは筆者の父親が最後に残した、愛する娘への「遺言」だった。
 ~ 鳴り物入りで始まった医療保険制度改革「オバマケア」は、恐るべき悲劇をアメリカ社会にもたらした。「癌治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用」「高齢者は高額手術より痛み止めでOK」「一粒10万円の薬」「自殺率一位は医師」「手厚く治療すると罰金、やらずに死ねば遺族から訴訟」これらはフイクションではない。すべて、超大国で進行中の現実なのだ。石油、農業、食、教育、金融の領域を蝕んできた「1%の超・富裕層」たちによる国家解体ゲーム。その最終章は人類の生存と幸福に直結する「医療」の分野だった。~<本書巻頭辞>より
新自由主義の「先進国」アメリカでは弱肉強食の世相が社会を飲み込み、1%の超富裕層が国家の富を独占する状況が続き、年収8万ドル(800万円)の家庭でも、いったん重病や重度の傷害を負った場合、相当高価な保険に加入していない限り、「生活の質」が一変し、場合によっては「自己破産」に追い込まれる。医療費の高いアメリカでは、リハビリに月900ドル(9万円)などと言う例も決して珍しくはない。最底辺の低所得者層はメディケイドの制度で救済されるが、ごく普通の所得の家庭でも、医療費がかさみ、加入している保険が不十分な内容のものであると、十分な治療が受けられなかったり、経済的に破産してしまったりするのだ。「自由の国」アメリカの皮肉な裏側であり、正に「破産し没落する自由」が選べるのだ。これは笑い事ではない。これに似た言動を元閣僚経験者の某経済学者(?)が発していたのを確かに覚えている。許せない発言だ。
日本も決して「他国の話」と呑気なことを言ってられる状況ではない。話題の「TPP交渉」の成り行きいかんでは我が国も米国のような状況が、いや最悪の場合それ以上の悲劇的な状況が生まれる可能性があるのだ。米国に於いては医療や保険は福利厚生というより、「商品」なのだ。人の命が「商品化」されて扱われる。「国民皆保険制度」がいったん崩れれば、こういう社会が現実にやってくるのだ。
オバマ大統領が、力を入れている「皆保険制度」は日本人から見れば「歓迎すべきもの」として映ったかもしれない。しかし、その内容は細部が分かってくると、日本の皆保険制度とは似ても似つかぬものであり、「オバマケア」の保険に加入した場合、人によっては従来の民間保険の数倍懸け金を負担しなければならず、なんのための制度改革なのかという不満の声が高まっているという。
皆保険制度の導入で、経営が苦しくなる企業もあって、一説によると全米企業の半数が「罰金」を払っても企業保険を廃止しているという。そのため、フルタイムからパートタイムへと雇用形態が変容し450万人が雇用保険を失っているという。企業の論理で行けば、1人のフルタイムを減らせば2人のパートタイムが雇えるという計算らしい。ある予測では2016年までに3000万人が無保険になる見通しだという。
この結果労組の組織率が年々減少し、現在13%まで低下してしまったという。日本も決して他人ごとではない。
「中流階級はより大きな安全を手にいれるだろう」とオバマは言った。しかし20年間の増税は500億ドルとの見通しで、治療費はじめ保険料や薬価に上乗せされる。
「旨み」を味わうのは保険会社と製薬会社だけで、その他は負担増を強いられる。どうにも患者は楽をできそうにない。2重3重に苦しみを与えられ、大資本家のみが「勝ち組」となる。この構造どこかの国に似てないか。
医師もまた保険制度のしわ寄せを受けている。かつて高額所得者の代名詞だった医者という職業も、変容を迫られ、訴訟世界というアメリカの個別事情も手伝って、医師の貧困化が進んでいるという。「外科医なのにワーキングプア」という信じられないような現実も表れているという。
保険会社や製薬会社を中核とする「医療産業複合体」はすさまじい勢いで社会を飲み込み、正に「笑いの止まらぬ快進撃」を続けている。そして次のターゲットは紛れもなく「日本」だという。TPPなどでアメリカ型の医療システムが導入され、極度の規制緩和が進むと、日本はアメリカ企業にとってきらきら輝く美味しい市場になる。大型医療法人が肥大化し、病院や介護施設を傘下に置くようになる。つまり医療や介護が文字通り「商品」となり「成長産業」として脚光を浴びるようになる。「命」を金で扱うようになるのだから、究極の命の売買の場として、戦争も視野に入ってくる。正にアメリカの再現そのものだ。
日本の生命保険市場は世界2位の広さを誇っているという。今後規制緩和を進めると、国民負担を6割まで高める時代が来るという。年金さえも株で運用している日本に、大資本は次の「マネーゲーム」をしかけようと狙いを定めている。
「憲法9条と国民皆保険」この二つは日本が絶対に手放してはならない生命線だ。と作者は訴える。全くの正論と考える。戦後日本が世界に誇れる「日本ブランド」これは日本人としてのプライドのかかった、最重要案件なのだ。軽々しく「健保解釈を変える」などと言いだす政権の源には日本の伝統・文化を愛する心情が十分あるとは到底思えない。アメリカを見習って、アメリカの蒔いた餌にすぐ飛びつく悪食な番犬には断じてなってはいけない。

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by tomcorder | 2015-08-02 15:56 | 日記