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渡霧吐夢世界

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薄暗く不透明な世に一条の光を求める一こま

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  「闘う力」~再発がんに克つ
                                            なかにし礼    2016年2月24日刊

 作詞家、小説家、タレント等々で有名な、かの、なかにし礼氏の実体験を語った、「闘病日記」とも言うべき一作。氏にとって最新の書き下ろし作品ということになる。
 本書を一読してまず感じたのは筆者の類まれな「精神力」である。氏のこれまでのマスコミへのアッピールや各種の報道に見られる主張などから、かなり自己主張の強い人物であろうことは想像していたが、これだけ冷静に自分を取り巻く状況を分析し尚且つ、自分の主体性や価値観をしっかり保持できる人間は世間にそう多くはいないのではないかと思われる。それは「物書き」としての本能なのかも知れないが、自分自身も含めて実にクールな物の判断ができる、強い個性の持ち主であることは誰しも本書の内容を知れば疑うことはないであろう。
 作者が本書で綴った内容は2度の癌との闘いの記録であり、本人だけに書ける実にリアリテイに溢れた表現の連続である。最初に食道癌との闘いが始まった時、筆者は多くの患者が経験するような、外科的手術による選択肢を避け続けた。そして「切開手術」によらない方法を模索する中で、「陽子線療法」という治療法にたどり着いいた。この治療法は最先端の治療方法でまだ全国で実施できる病院は限られているが、外科的手術で摘出することなく癌を「消す」ことができるということで、条件が合えば願ってもない治療方法になり得るのだ。実際なかにし氏も初回の癌治療でこの方法で治療を受け「大成功」をした。(ように見受けられた。)余りに経過が良かったので、その後なかにし氏自身が「陽子線治療」の広報員として各所で講演活動を行った。しかし、運悪く癌は「完治」ではなかった。約3年近くが経過しようとしていたころの、定期健診で再度癌が発症していることが確認され2回目の闘病生活が始まった。しかし、2回目は初回とは違って、極めて重篤な病状だった。発症状況が危険な場所にあり医師の診断によると極めて危険性の高い状態にあった。残念なことに1回目の執刀医から直々に「今度は陽子線は使えません」と即断されてしまった。医師団の様々な忠告や意見を得て、筆者は結果的に手術及び抗がん剤療法の道を選択した。しかし、運悪く緊急手術の甲斐もなく、癌そのものを取り除くことはできなかった。ろっ骨を切断した手術のあとは猛烈な痛みに襲われ、やむなく強烈な痛み止め(麻薬)を使わざるを得なかった。しかし、痛みを抑えるのと引き換えに、恐ろしい幻覚と格闘させられることになる。
ようやく痛みが去り体力が戻る頃、抗がん剤療法が始まるのだが、これが又副作用がいろいろあって、苦しい体験ではあったが、何となかにし氏はこの苦しさを、本業の「物書き」として執筆にうちこむことで克服していったのである。まことに「真似のできない」精神力持ち主だ。そのほか闘病中に起きた様々な症状に対しても実に冷静沈着に対応し、なんと「もしもの時」に備えて「戒名まで」用意していたのだ。まさに小説にでも出てきそうな話ではあるが、筆者の価値観、人生観が如実に表れていて、感慨深い。
 癌との闘いを綴る中で、創作者としての「なかにし礼」の人となりを十分感知できる作品にもなっている。70代も後半となり、決して若くはない年齢かもしれないが、これだけの精神力、情況分析力のある筆者の資質からすれば、まだまだ数多くの傑作を世に送り出すことが十二分に予測され、また期待することができる。筆者の健康が続き、自ら追い求めるような創作活動が続くことを心から念願したい。
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by tomcorder | 2016-06-05 23:35 | 日記