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渡霧吐夢世界

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薄暗く不透明な世に一条の光を求める一こま

読書日記2月21日

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 死の灰を背負って 大石又七著
                                1991年7月刊 工藤敏樹編
この書が発刊された1991年現在、「あの日」からすでに37年が過ぎていた。
「あの日」とは昭和29年3月1日、所はマーシャル群島、「ビキニ環礁」付近のことである。つまり作者はマグロ船「第五福竜丸」に乗り最後の漁を始めようとした明け方、不幸にもアメリカの行った核実験の被害にあい被爆してしまったのである。この日以降作者は想定したこともなかった、特異な体験と経験を続けることになった。37年間にも及ぶ作者の「闘い」の足跡が作者自の言葉で語られたのが本作品であるが、ここに至るまでには語り尽くせぬ幾多の葛藤があったに違いない。作者も言っている通り、年少にして漁師の世界に入り、被爆して後クリーニング業に専念してきた人間がまさか自叙伝を発刊するなど、夢にも思わなかったかもしれない。しかし、作者の自己評価とは違って本書は、圧倒的な迫力で読むものを引きつけずにはおかない。ある種の「迫力」が一貫して作品としての本書に「緊張感」を与えている。作者が意図して書いたかどうかは分からないが、とても「素人」とは思えない説得力を全編を通じて感じとることが出来る。体験してきた人間だけが語り得る、飾り気の無い率直な言葉で綴られた文のみが描くことのできる、リアルな世界である。作者の言いたいことが、凝縮した表現形態となり、実にダイナミックな情景描写、心理描写の連続となって現れている。37年もまえに起こった事実が生々しく伝わってくるようである。
 この作品を通して分かるように、「第五福竜丸」の事件は、戦後の歴史の中で。理不尽な国の政策や、超えることの出来なかった時代の矛盾や、当時の日本社会の、物心両面の貧しさなどを赤裸々らに描き出した。そして、自らの体験を語ることに存在感を見出し、意欲的に反核・平和運動に取り組む作者の姿勢に、誰しも自らの姿勢を問われていると感じざるを得ない。
by tomcorder | 2013-02-21 22:21 | 日記

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