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渡霧吐夢世界

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薄暗く不透明な世に一条の光を求める一こま

読書日記5月30日(金)

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「南京大虐殺否定論13のウソ」  南京事件調査研究会 199年10月刊

1937年12月に日本軍は当時の中国の首都南京を占領した。そのとき起こした大虐殺事件は、海外では「南京アトロシティーズ」とか「ザ・レイプ・オブ・南京」などと呼ばれ、世界の歴史に刻まれている。日本では「南京大虐殺」と呼んでいる。「いやなことはなかったことにしたい」のは人間の共通心理かも知れないが、この事件を「なかったこと」として処理したい政治家が次から次と問題になる発言を繰り返している。1994年5月に永野茂門法相が「南京虐殺はデッチ上げ」と発言し、辞任に追い込まれたことがあったし、石原慎太郎元東京都知事も「南京虐殺は中国の作り話」と語って大問題を起こしたことがある。こういう意見に対し日本政府の公式見解は1951年のサンフランシスコ平和条約の第11条で、「南京虐殺を認めた東京裁判の判決を受諾する」と約束している。1998年の公式見解でも、種々の議論はあるものの、虐殺行為があったことは否定できない事実であると認めている。さらに1999年4月19日の野中広務官房長官の記者会見でも、「南京入城後、日本軍が非戦闘員である中国の人たちを殺害、略奪があったことは否定できない事実と考えている」と公式発言している。このような事実があるにも関わらず、「否定論者」は何回でも否定論を繰り返し、世論を誘導しようとしている。論理の問題というよりは、「マスコミの勢い」を借りてメデイアの世界で既成事実を作ろうとキャンペーンを広げようとしているように映る。「論争」というよりは政治的「戦略」に近い現象といった方がいいかも知れない。
 本書の執筆者は「南京事件調査研究会」という形式的名称で記述されているが、実際に原稿を投稿したのは、井上久士駿台大教授、小野賢二氏、笠原十九司都留文大教授、栗原彰一橋大名誉教授、本田勝一氏、吉田裕一橋大教授、渡辺春己弁護士、の7名の面々である。何れも南京事件について詳しい資料と博識の持ち主で、否定論者の言い分に対し、適格かつ痛烈な論旨で指摘しており、最強の論客が集まっている感がある。
戦後70年近くが経過し、戦争を未体験の世代が多数を占める時代になった。自分自身を含め、経験していない時代の事件について強い否定論が展開されると、ついつい「そうだったのかな」と自信のない反応を取りやすい傾向がある。しかし、それこそ「否定論者」の思うツボであり、「体験がないからキャンペーンは有効」などと言う風潮が高まってはいけない。「知らない世代こそ、真剣に学習し、調べるべきなのだ」幸い今は広く資料が手に入る時代だ。国内の偏狭な復古主義者の弁に動かされる前に、国際的レベルの論調や海外からの資料を目にすることも可能だ。そういう観点から考えてみれば、いわゆる「否定論者」の説がいかに強引であり、少しの「盲点」から大きく全体像を否定することなどできない、ということが冷静に判断できるのである。
現政権になり、極めて復古的な政治路線が、先を急いでる風潮の政治状況の中で、じっくりと歴史認識を持つことは、現代を生きる我々にとっても極めて重要な案件と思える。
by tomcorder | 2014-05-30 18:55 | 日記

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